憂慮される健康危機管理への対応

 現在大阪市会では、大阪市立環境科学研究所の独法化に向けて、大きな山場を迎えています。2016322日、民生保健委員会で3議案の審議がありました。28日にも採否が決まるようです。そのなかで、非常に気になった市長の発言がありました。

  

審議されている議案:

(8)議案第100 大阪市立環境科学研究所条例を廃止する条例案
(9)議案第101 地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所への職員の引継ぎに関する条例案
(10)議案第166 大阪市立環境科学研究センター条例案

  

インターネット録画放映はこちら

 ◆吉村市長の発言 57分頃:

健康危機管理事象のあった場合、研究員が倍増するので集中的に投入でき、それにより感染経路・原因究明を図るのだ、との発言でした。これを聞くと、健康危機管理への対応が実際にはどうなっているのか、吉村市長は全く理解していないことがわかります。さらに、独法人が担当する区域もよく分かっていないようです。

  

 健康危機管理事象が発生したら、人の頻繁な移動や食品物流の広域化で、たとえ最初に明るみにでたところが遠隔地であっても、自分の自治体にも影響があるかどうか調べることが求められます。原因追及などに必要な検査だけでなく、自分のところはどうなっているかという行政の関心や、調べてほしいとの住民の要望、きちんと対応しているのかというメディアの追求もあり、検査しなければならない件数は急激に膨らみ、大阪なら府・市全域で検査需要が増えるのです。それが大阪市で発生した場合はどうなるか。当然、府・市全域で調べることになります。健康危機管理事象は、そもそも行政の区割りには関係なく広がります。市だ、府だ、とは言ってはおれないのです。職員は府市合わせた人数になるとともに、仕事をしないといけない区域も広がるのです。そこに大阪市内だけはしっかり検査しろと「命令」したところで、混乱に輪をかけるだけです。市域だけしか念頭にない市長と府域を見ている府知事、両方の科学面を担当する独法人の理事の3者が入り乱れ、緊急事態への対応がうまくいくのか非常に憂慮されます。

 

◆ 危機管理への対応について、314日の民生保健委員会での杉田忠裕委員(公明)から質問が出ていました。

 314日のインターネット録画放映は こちら

40~45分あたり

大阪市関係では直営の環境科学研究センターと独法の研究所ができることになるが、その場合の意思決定や責任は誰になるかという質問に対し、

 吉村市長は危機管理の意思決定は市長にあり、衛生分野についても指示を出し、責任も取ると発言しています。

このように、大阪市直営と独法人という所管の異なる機関が、健康危機管理事象に関わることになるという問題もありました。

 

 ともあれ、健康危機管理事象は大阪市域だけで事が済む問題ではありません。最初から広域で対応することが求められます。

関係者は市長に対して、健康危機管理事象への対応について、どのように説明したのでしょうか。実態をよく知らない人が机上の説明を通り一遍しただけではないでしょうか。あるいは、市長が聞く耳を持たなかったということでしょうか。

 

健康危機管理事象へ対応は、独法化問題に関わる重要なポイントです。それなのに市長がこんな認識で、市当局は厚生労働省に健康危機管理にも対応できるとどうやって説明するのでしょうか。独法人化ありきで、それに合わせるためだけの説明、スケールメリット云々と統合・独法人化の利点をいくら繰り返したところで、言葉は上滑りしているだけです。

 

● 322日の質疑を聞いて感じること:

 

自民党西川ひろじ議員、共産党井上浩議員は、地方衛生研究所の業務を十分理解したうえで、反対する議論を展開されていると思います。また公明党杉田忠裕議員は、322日は手続き面を中心に念を押す発言ですが、314日の委員会では、現在の環境科学研究所の業務・役割についてよく勉強されたうえでの質問だと分かります。

 

一方大阪維新の会、飯田哲史議員は、環境科学研究所が何をしているところかには目もくれず、独法人化した場合の利点ばかり主張されています。飯田議員の質問に対して、当局側はメリットばかりを強調し、これでどうだといわんばかりです。普通何かを判断するときには、メリット・デメリットを勘案して決定するものではないでしょうか。

 

 独法化に反対や疑問を持つ議員は、よく勉強されている一方で、独法化に賛成の議員は環境科学研究所やその役割についてはあまりご存知ないのではないでしょうか。入れ物について幾ら利点を並べようと、その前に中身に対する理解が必要だと思います。

 

2016.3.27