独立行政法人・地方独立行政法人制度の導入・改編経緯

 

独立行政法人「改革」のあらまし:

 

独立行政法人は、2001年に発足はしたものの、「改革」は進まず、官製談合などの問題は温存されているとして、見直しが続きます。2009年までは、独立行政法人に移行させた組織における改革が不徹底だとして、改革を促す閣議決定が何度もされました。これらでは、他機関との統合や事務・事業を見直すなど、有効性や効率性を追求するよう強く求めています。ところが2010年になって、改革が進まないのは、個々の組織について、業務の特性や実態を見ず、法人の組織面や設立することだけを重視したからだという分析がなされるようになります。つまり、減量ありきで法人化を進めたものの、事務・事業の中身についての議論がなかったというのです。そこで、一律で進めたことを改め、法人を類型化し、その類型別に「ガバナンスのあり方」を考えることとされました。その後この類型も変更を経て、2014年に改正された通則法では、「中期目標管理法人」、「国立研究開発法人」、および「行政執行法人」の3類型が示され、それぞれの類型ごとに運営のあり方が示されるようになりました。

 

 ◆ ここでは、独立行政法人・地方独立行政法人制度に関わる資料をあつめました

一部、★印以下に地方衛生研究所に関係する点について記述があります。

 

① 1997/12/3 行政改革会議『最終報告

        独立行政法人の創設

 

  1999/7/16 「独立行政法人通則法」(法律第103号)

 

② 2000/12/1 閣議決定「行政改革大綱

        地方にも独立法人設置を提案

 

③ 2001/7/24 総合規制改革会議『重点六分野に関する中間取りまとめ

        社会的分野も対象になった転換点

 

④ 2002/6/24 総務省『地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書

        対象となる業務として「試験研究」

 

  2003/7/16 「地方独立行政法人法」(法律第118号)

   2007/8/10 閣議決定「独立行政法人整理合理化計画の策定に係る基本方針」

       設定した類型ごとに整理合理化計画を作成

 

 2007/12/24 閣議決定「独立行政法人整理合理化計画」

      ・成果:人件費削減、財政支出削減、自己収入増加、透明性確保

        ・一部で官製談合の舞台になり、国民の信頼回復が課題

        ・さらに「効率化」、「自律化」を進める

        ・財政面は、「中期的には国への財政依存度を下げることを目指す」

      [ 官製談合の例としては緑資源機構 ]

 

  2009/12/25閣議決定独立行政法人の抜本的な見直しについて

      改革は不徹底で国民の不信感払拭されていない、更なる減量を

 

 2010/12/7 閣議決定「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」

         業務特性・実態の異なるものを同一視、だから改革進まず

  

  2012/1/20 閣議決定「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」

        独立行政法人制度導入10年後の見直し

       2類型=成果目標達成法人型、行政執行法人型

 

  2013/12/24 閣議決定独立行政法人改革等に関する基本的な方針

       3類型=中期目標管理型、研究開発型、単年度管理型

       通則法改正めざす

 

  2014/6/13 独立行政法人通則法改正(法律第66号)分類、目標・評価の仕組み

          法人を分類=中期目標管理法人、国立研究開発法人、行政執行法人

                 目標・評価の仕組み構築

 

 なお、地方独立行政法人法の改正は2度行われていますが、他の法律がらみのものであり、内容を変更するものではありません

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①行政改革会議『最終報告』

「Ⅳ 行政機能の減量(アウトソーシング)、効率化等」という部分で独立行政法人についてどのような業務を対象とするのか、具体的な機関名が挙げられています。

対象業務が示されているのは「③ 独立行政法人の対象業務と設立の考え方、ア 対象業務の考え方」です。ここに独立行政法人の業務の性質が満たすべき要件が示されています。

 

注目されるのは除外される業務もあるというところで、国が自ら主体となって直接実施しなければならない事務・事業として、以下の3点が挙げられています。

 

○ 私人の権利義務に直接かつ強度の制限等を及ぼす公権力の行使に当たる事務・事業
○ その性質上、国が自らの名において行うのでなければ成立しない事務・事業
○ 災害等国の重大な危機管理に直結し、直接国の責任において実施することが必要な事務・事業

 

これは国の機関についての話ではありますが、地方にもこの考え方は適用されるべきだと思います。地方衛生研究所の主要業務のひとつである健康危機管理は、最後の「災害等国の重大な危機管理に直結」しているのではないのでしょうか。

 

②閣議決定「行政改革大綱」

地方にも独立法人設置を提案。

この資料の「地方分権」に関する章で、「(4) 第三セクター、地方公社、地方公営企業等の改革」として、「カ 地方独立行政法人制度の検討」という項目があり、「国における独立行政法人化の実施状況等を踏まえて、独立行政法人制度についての地方への導入を検討する」とされた。

 

③総合規制改革会議『重点六分野に関する中間取りまとめ』

高等教育の観点からこれまでの規制改革を検討している瀧澤は、総合規制改革会議のこの報告が、医療・福祉・教育など社会的分野にも規制緩和が拡大される、大きな転換点になったのだと指摘しています。さらにその実施も、各分野の特性を検討することなく、規制緩和先行で進んでしまった、と論じています。

大阪における地方衛生研究所の地方独立行政法人化は、業務のあり方について十分な議論なく進められました。「規制改革」先行で進められる状況は、ここにその原型が見られます。

瀧澤2008a

瀧澤博三「規制改革と高等教育(その1)-規制改革とは何だったのか-」『アルカディア学報』2316号,2008年.

日本の規制緩和の経緯を検討すると、行革は「行政簡素化」から「構造改革」へ展開し、それには日米構造協議が大きく影響しており、つまり米側の要望が強く影響している。さらに経済活性化を目標とした政策手段であるはずの規制改革が、経済活動の範囲を超え、教育・福祉等の分野に拡大され、しかし、経済以外の分野の政策目標・政策理念は顧慮されず、当該分野の関係者は蚊帳の外に置かれた、と論じています。

 

瀧澤2008b

瀧澤博三「規制改革と高等教育(その2)-事前規制から事後チェックへの意味-」『アルカディア学報』2325号,2008年.

かつては国民の安全、健康、災害防止、環境保護等の社会的目的を持った分野については、改革にも一定の歯止めを設ける考え方があった。しかしその後、社会分野(医療・福祉・教育・雇用)でも経済分野と区別することなく市場原理優先の方向になった。20017月に「総合規制改革会議」が出した「重点六分野に関する中間取りまとめ」では、医療、福祉・保育、教育、人材(雇用)、環境等の各分野について、規制改革を進める方針が打ちだされた。瀧澤はこれが転換点となって、以後教育分野も市場重視の規制改革政策に組み込まれた、としています。分野横断的に共通原則を押し通したこの会議の審議方法は、「経済を優先課題とする独断と市場への過信」だと、強く批判しています。

 

規制改革推進論は、経済分野とは別の社会的分野があるとは考えない上に、その分野毎の特性に応じた検討もしない。総合規制改革会議の決定事項は、経済財政諮問会議と連携して、年次ごとの閣議決定(骨太方針)に盛り込まれて、各省への強制力を強めた。その結果「通常の審議機関の枠を超えた強力な手法を行使」し、各省との調整に強い影響力を発揮した。「結局、社会的分野のサービスの提供と質の維持に関しては、担当省庁との実質的な調整が行われないままに、民間開放、市場経済化へ向けて中央突破が図られた」。その結果、実態との齟齬、政策的誤りを残すことは当然予想されたのだ、と批判しています。

 

④『地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書』

国において独立行政法人に移行された機関と同様の性格を有する機関の事務及び事業として、国の機関は「おおむね4分類」できるとされています。

 

①試験研究機関 独立行政法人消防研究所など

②検査検定期間 独立行政法人農林水産消費技術センターなど

③文教研究施設 独立行政法人国立公文書館など

④作業施設 独立行政法人家畜改良センターなど

 

この分類が適当かどうかについては議論もあると思いますが、ここでは例に挙げられたいくつかの機関について、一旦は独立行政法人になったものの、変更・批判がある機関や、さらに独立行政法人制度自体が本来の目的を果たしていないとして、制度の廃止を含めて根本的に検討すべきだと主張されている論文を紹介します。

赤池・荒井(2010):

赤池史孝・荒井達夫「独立行政法人の問題の本質を考える」『立法と調査』第308号,2010年,89-101頁.

消防研究所=公務員型の独立行政法人に移行したが、権力行使を伴う業務の特殊性から非公務員化が困難で、国の機関に戻った

     消防研究所で何が起きていたのかについては、こちら

公文書館=公務員型の独立行政法人に移行したものの、国の機関に戻すべきではないかとの意見がある

 

また政府による予算措置があるため、関係府省庁の予算権限を背景に、公務員の天下りが行なわれ、経営の自主性を阻害しているところもある。非公務員型の法人に無駄に税金が投入され、各法人業務の拡大解釈から、事務・業務の拡大、自己増殖の恐れのところもある。

 

一方、国立美術館、国立文化財機構(国立博物館等)のように、業務の維持向上のための必要な運営資金を確保できず、存続の危機に瀕しているところもある。本来、業務の性質として採算や効率性を度外視して追求すべき公共性」があるはずだ。

 

そもそも独立行政法人とは、1998年の中央省庁等の改革で行政改革の「有力な手段として導入」されたものであり、行政組織のスリム化と特殊法人問題の克服をめざすものだった。ところが、2006年制定の「簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」で、「独立行政法人の見直し」が重要施策の一つに規定される事態になり、制度を導入した本来の行革の目的を果たせていないのだ。

 

独立行政法人は、法制度そのものに重大な問題があり、「制度の廃止(通則法の廃止)を含めた根本的検討をすべき」だ。

 

詳しくは論文をご覧ください。

 

 

参考サイト:

「これまでの行政改革に関する公表文書」

 

「これまでの行政改革と理念」

 1回行政改革に関する懇談会における配布資料

 土光臨調から2006年まで総まとめ

 

行政改革推進会議

 


2016.1.25