独立行政法人については、国立消防研究所が一旦は独法人になったあと、2006年にまた国に戻された例があります。その経緯をみると、行政の中の科学技術がどんな扱いを受けるのかよく分かります。
ここでは、「消防研究所」の経緯について以下のHPに掲載された資料を中心にまとめました
○印のところは、私の考えを挿入しています。
1948年、消防研究所設置
↓ (上部組織の変遷に伴うなど変遷あり)
2001年、独立行政法人消防研究所
↓
2006年、消防庁消防大学校消防研究センター
消防庁消防大学校消防研究センターHP「旧消防研究所から現機関へ」
2001年、国立研究機関の独立行政法人化のとき、他の研究機関とともに消防研究所も独立行政法人に移行
この独法化について:
各省横並びで、最低1つは独立行政法人にすべきだったので、小所帯の旧自治省には消防研究所しか該当組織がなかった(ある総務省職員)
参照:「骨太の方針 スジ違い? 消防研究所まで廃止へ 『まず削減ありき』」『東京新聞』2005年10月7日朝刊.
さらに後に消防庁へ統合・吸収されることが決定されたとき、総務省の幹部は独法化がそもそも間違いだったと発言
参照:「廃止後消防庁復帰へ『行革に逆行』の声も」『朝日新聞』2004年12月8日夕刊.
○独立行政法人への移行は、研究所のあり方を考えて行われたものではなく、上からやってきた行革に数合わせをさせられたのだった
2004年、独立行政法人の中期目標の見直しがあり、同研究所も見直しが行われた
◆2004年の動き:
8月10日、総務省独立行政法人評価委員会(第11回)で、消防研究所について検討
これまでに「消防研究所分科会」で13回議論した結果を説明
○この時、独立行政法人の理事長も出席しているが、説明は消防庁の課長が行う
課長:
本来は消防庁の「一部の機関」であるべき
政府全体の方針に従い、独立行政法人の形態をとりながら、国の機関に準じた役割を果たしてきている
消防専門の研究機関として現地消防機関から厚い信頼を得ている
公権力の行使の観点から国家公務員としての身分が必要
委員:
緊急業務の評価をどう取り入れるか考えるべき
今回の結果をもとに、9月末までに来年度の見直し案を作成することに
10月、「独立行政法人に関する有識者会議」:
消防研究所は防災科学技術研究所と統合すべきとの意見
これに対して、全国消防長会や関連団体から要望書:
「消防」の独立した研究所が必要
○このとき独立行政法人であることは問題にされず
11月12日、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会独立行政法人評価分科会
独立行政法人の非公務員化は、当然の原則として記載すべき
○消防研究所については特になし
11月中旬、自民党行政改革推進本部(本部長:衛藤征士郎参議院議員)による消防庁へのヒアリング
○これに関する資料はここでは示されていない
12月7日、総務省政策評価・独立行政法人評価委員会開催
この議事要旨に、いきなり消防研究所の廃止が登場
廃止の内容:
法人の廃止(つまり国へ戻す)と人員は5割削減し、その数は後で戻らないように歯止めをかける
○廃止するかどうか検討した肝心のところの資料は示されておらず、ここでは決定の経緯は追跡できない
12月10日、総務省独立行政法人評価委員会が意見
内容:
消防研究所が国の危機管理体制の充実強化の観点から国の組織にするとの方向性を示されたことはよい
しかし、同時に示された人員の大幅削減については、同研究所の従来の役割が大きく損なわれる懸念があり、再考を要する
当委員会の要望として、業務の見直し後(国へ戻した後)も、同研究所が業務を遂行できるよう考慮すべきだ
○内容から、危機管理がらみで消防研究所を国に統合することが決まったようだと推測できるが、それをどこで誰が決めたのかはわからない
また、同研究所について評価委員会が時間をかけて検討してきているにもかかわらず、全く別のところから、それを無視して頭ごなしにその去就が決められている
同評価分科会からは2005年3月9日に要望書が出される(下記参照)
12月24日、行政改革推進本部の決定
消防研究所を消防庁に統合・吸収、人員は5割削減、緊急対応業務の要員だけ
同日、「今後の行政改革の方針」閣議決定
「独立行政法人の組織・業務全般の見直し等」として独立行政法人農業者大学校とともに、独立行政法人消防研究所を廃止
◆2005年以降の動き:
3月9日、総務省独立行政法人評価委員会消防研究所分科会(分科会長:廣井脩東京大学教授)
消防研究所について検討してきた評価委員会の分科会が、「必要な研究業務を確実かつ十分に実施できるような組織形態となるよう、政府として配慮すべき」だと要望書を提出
5月から2006年3月にかけ、日本火災学会や国際火災学会など内外6学会、全国消防長会、および国際火災研究所フォーラムから要望書
消防研究所はこれまで極めて小規模であるにもかかわらず、各分野から見てもすぐれた研究活動や学会への貢献を行ってきたと評価
基礎研究と緊急事態対応業務のバランスをとるよう、あるいは基礎研究や業務が確実にできるよう組織・人員・予算の確保を求める
○学会などは人員減で研究活動ができなくなることへの強い危惧をもつ
◆2006年の動き:
3月31日、独立行政法人消防研究所解散
4月1日、消防庁消防大学校消防研究センター新設(初代所長旧消防研究所室崎益輝理事長)、消防研究所の調査研究機能を引き継ぐ
また、消防庁予防課に消防技術政策室新設(初代室長旧消防研究所事務局長)
同室は、消防研究センターの基本戦略を決め、調査研究を支援
★地方独立行政法人制度について、何が対象となるか検討していた研究会の報告書 『地方独立行政法人制度の導入に関する研究会報告書』(2002年)では、
対象となる業務が4分類され、その一つが「試験研究機関」となっています。
その例として挙げられているのが、「独立行政法人消防研究所」です。
しかしその消防研究所は、本来独法化すべきではなかったなどとして、今は国に戻っているのです。
報告書はこちら 26コマ目
2016.1.21