消防研究所で、独立行政法人化の検討段階から、2006年に消防庁に統合・吸収されるまで、一貫してその検討作業に従事した松原美之氏による講演記録を紹介します。
資料:
松原美之『廃止され国に統合・吸収されることとなった「独立行政法人消防研究所」は何をしてきたのか? 』科学技術政策研究所,2007年.
国立国会図書館、大阪府立中央図書館が所蔵
松原氏からいただいたPDFファイルは右カラムにあります
2006年2月23日、科学技術政策研究所で行われた独立行政法人消防研究所研究統括官 松原美之氏の講演の記録
本講演は、独立行政法人消防研究所が来る4月に廃止され、国に戻ることになっていた時期に行われた
概略:
2001年の独法化の際は、前向きにとらえて、独法人の利点を生かして組織・運営面を変えた この時は、公務員型に移行
独法化後、消防研究所の専門家が派遣される火災や災害が相次ぐ
これら事例を受け、消防法の改正があり、消防活動が強化された
これに伴い消防研も、組織強化を考えていた
ところが次期に向けた中期目標の見直しの際、政府改革推進本部有識者会議が、防災研との統合、非公務員型化など、消防研の根幹に関わる変更を主張
結局政治決着で、統合はせず、国に戻ることになった
消防研究の根幹:現場に立って研究する
1998年6月、「中央省庁等改革基本法」公布
同年9月、消防庁内に「独立行政法人問題検討チーム」立ち上げ、消防庁内で検討
1999年1月、「中央省庁等改革に係る大綱」で、消防研究所は独法化対象機関に決着
独法化決定後は、個別法・中期目標の作成に取り組む
2001年4月、独立行政法人消防研究所発足、この時は公務員型
独法化を検討した時、消防研の業務を整理
火災現場での対応と不離一体の存在であることを「独立行政法人消防研究所法」に盛り込む
目的:国民の生命、身体および財産を保護することに寄与
事業・業務:
①研究をして知識を蓄え、皆様に提供する
②火災原因調査権を持つ=消防法を改正し独法人が持つことを明記
③災害発生時、総務大臣が消防研に命令=緊急の研究、仕事をせよと命じることができる
これらは、独法人の法律の中で、「ちょっと特異な条文」となっている
中期目標を作る際、消防庁は「その日暮らし」の役所だったのだと思い至り、まず5年間何を目標とするのかを議論
「消防防災科学技術高度化戦略プラン」作成
消防庁内に、外部有識者による消防防災科学技術懇談会も設置
独法化後の変更点:
〇研究の進め方
①基盤的研究 継続するもの 「ドメイン指向」
②プロジェクト研究 所長の指名・自薦・他薦で人を集める 「ミッション指向」
〇組織
研究企画部 筆者は最初で最後の部長となる
基盤研究部 研究者全員所属 10グループ化
プロジェクト研究部 プロジェクト期間だけ基礎研究部から併任
消防研究所の中期目標の特徴:
①重点研究は状況変化で変更可能にする
②余剰金の使途=年度越して災害発生時の調査研究に使えるよう明文化
独法人は年度超えて積み増しできることになっているが、明文化している機関はない
この他にも「独立行政法人制度のメリットを全部を捕まえていろいろやっています」
①勤務評定:実績で評価、多面評価、結果をボーナスに反映
②火災原因調査体制強化
●独法化後、相次いだ火災・災害で、消防研の専門家が現場で活動、研究成果を活かす
・新宿歌舞伎町火災(2001年)
→ 消防法改正(2003年):
従来地方自治体が国に助けを求めた時に行くだけ
消防庁長官が直接、自ら原因調査を指示できるように変更
→ 消防研は火災原因調査体制を強化
歌舞伎町火災実験も実施
スプリンクラーのつけ方を検討 → 消防法の大改正
・石油タンクの火災実験
タンク全面の火災は起らないから無用との意見もあったが、起きる可能性を考え実施
2003年、十勝沖地震で、実験をしたその場所で本物の火事発生
専門家派遣
事故後の原因究明から政令改正まで一気に実施
・「土砂崩れ」研究
一つの研究テーマとして営々とやってきた
他の研究機関にもある研究テーマだが、独自視点=消防活動の2次災害防止
例)2004年、新潟県中越地震で専門家を現地に派遣し、生埋め救助を支援
地道な研究を続けてきて、この時役に立った
[ 消防研職員の派遣については こちら ]
●独立行政法人としての評価は高かった
火災・災害などを受けて消防法が改正(2003年)された結果、消防活動が強化された
それを支援する消防研については、評価委員会は機能強化するよう結論をだしていた
これを受けて、次期に向けた中期目標の見直時、研究者1割増、事務部門削減を考えていた
一方、政府改革推進本部に設置された有識者会議が、消防研について主張:
①防災研との統合
②非公務員型への移行
消防研関係者は知らず、新聞記事で知る
これに対しては消防庁を中心に反対:
・公務員でなくなることの組織の問題
・消防研の業務は、本来国の仕事
消防研関係者の主張:
・現場を踏まないと、研究にならない
・消防活動の現場に入るには、公務員でないと出来ない
結局、自民党行政改革推進本部が、防災研の統合案を撤回
さらに、総務・行政改革担当大臣間で調整、公務員型にこだわるなら、国に戻す、しかし移行要員は半減と「ある日突然」決着
●決まった方向:
独法人消防研は廃止し、事業は消防庁に統合・吸収する
業務は精査し、緊急事態対応などコアな部分のみ
要員は5割削減
●今後の消防研究組織の業務のあり方:
①火災・災害に対処できる技術力維持・発展のための活動
②法令の基準、消防設備の基準等技術データの蓄積
③消防しか使わない物の開発
④民間・他の独法人がやらない研究
●①に関して、緊急時対応をする消防研究組織のあるべき姿:
「現場に遅滞なく出動し、専門家として、緊急事態に対応する」
「専門家」として責任を果たすためにやるべきだと考えていること:
火を消す
2次災害を防止する
避難・誘導・類似災害の再発防止
緊急的災害に対応する実証実験
継続的に発生する災害や、危険を予測して対応する情報を整理・実証
その分析結果を踏まえ、維持すべき研究体制をフィードバック
大規模・特殊な実験施設が必要な実験はできるようにしておく
●特に石油タンク火災の事例を挙げて、「非常に主張したいところ」:
一連の仕事を1人の人間が系統的にやることがポイント
「ここだけ役に立つ人間というものをつくろうと思ったら、もう大変な話でございまして、やっぱり日ごろ、こういう研鑚が重要ということ」
●消防の科学技術=二つの考え方:
①科学技術から守る=科学技術に伴い生じてきた課題から国民を守る
②科学技術で守る
●日本の科学技術政策に提案したいこと:
消防分野の国際協力
●消防研究所の研究の木
「こんな木が実ればいいなと思っています」
2017.3.26