「府市統合本部」登場以前の府市の衛生研究所

 

大阪市は、職員厚遇問題に端を発して、市民からの信頼の喪失、職員の士気と自信の低下、さらに財政危機という3つの危機に直面したと認識し、20062月、「市政改革マニフェスト(市政改革基本方針)」を公表して、市役所の抜本的改革に取り組むようになりました。まず、市民の関心が高いもの、問題が大きいと思われるもの、事業規模の大きいもの、組織(局)を代表するものなどを中心に67 事業を抽出し、これらの事業について先行的に分析作業がおこなわれました。そのなかに環科研がありました。このとき、すべての事業について、経営形態が見直されています。

 

参照: 

市政改革マニフェスト「第一部 総論」7-9コマ

  

事業の経営形態の見直しは、事業の発展可能性、民間資金導入の可能性などの視点から、民営化・地方独立行政法人化など、経営形態の見直しに向けて事業の点検が行われました。

 

参照:

 大阪市政改革マニフェストに基づく新しい行財政改革計画(平成183月策定)の取組成果「第二部 集中改革プラン」9コマ

  

20069月、環境科学研究所では、経営形態のあり方を検討するため外部委員5名からなる委員会を設置しました。委員会では、各分野の業務について点検・評価が行われて、つぎのような意見がだされました。

 保健分野:業務管理と検査の信頼性と客観性の確保

              輸入感染症やバイオテロなどへの基礎的研究の推進と体制の整備が課題

 環境分野:大阪市の行政施策を補完する調査研究の今後のあり方

 さらに環科研の業務は、大阪市各局からの受託検査・研究が大半を占めるため、経営形態については関係部局を交えてあり方を検討することが望ましいとの観点から、関係部局が全業務の分析・評価、あり方を検討しました。

 参照:

 市会議事録「平成1923月定例会常任委員会(民生保健・通常予算)-0301日-03号」

 長尾秀樹委員から、環境科学研究所のあり方検討委員会の検討内容を質問されたのに対し、村上健康福祉局環境科学研究所庶務課長が答えている。

 ○あり方委員会の資料で公開されているもの:

 大阪市立環境科学研究所運営形態検討委員会「大阪市立環境科学研究所の今後のあり方について」2007年.

  

あり方委員会の意見を受け、また部局内の検討を経て、独法化には以下の3つの課題があるとされ、現行の経営形態を維持するとの結論になりました。

 独法化に障害となる3つの課題:

 ①微生物分野の課題:

 関係法令等で直接行政が行政権限を行使するための検査を実施、行政責任をどう果たすか

 ②環境分野の課題:

 単独で法人化しても規模が小さすぎ、利点を発揮できない

 ③健康危機管理事象に関わる課題:

 衛生と環境の両面からの総合力、機動力を発揮してあたることが迅速な問題解決につながる

 参照:

 市会議事録「平成213月定例会常任委員会(民生保健・通常予算)-0316日-06号」

 加藤仁子委員から、市政改革基本方針で環科研の経営形態を検討した内容はどうだったのかとの質問に対し、 山下健康福祉局環境科学研究所総務担当課長が答えたもの。

  

こうして環科研は、2008年度に現行経営形態のもと、効率化・機能向上に取り組むという方針が決定されました。

 参照:

 「集中改革プラン 5 年間(平成18~22 年度)の主な取組成果」2コマ

  

●このように2006年から始まった大阪市役所全体の事業について、業務の総点検、経営形態の見直しがありました。その際、環科研については外部委員による業務の点検・評価・あり方の検討、さらに関係部局による検討を経て、2008年に現行の経営形態を維持、つまり直営のままとする、との結論が導かれたのでした。

 

 ◆府市連携協議

 

環科研のあり方が検討される一方で、府の公衆衛生研究所との連携についての検討も同時進行的にありました。それは、府市で衛生研究所の再構築を図り、研究所の機能集約の可能性について2007年秋頃をめどに検討・協議する、というものでした。

 参照:

 「大阪市政改革マニフェストに基づく新しい行財政改革計画集中改革プランの取組成果」18コマ

  

20064月、助役・副知事を代表とする「府市連携協議会」が設置され、6項目について市民サービスの向上や、効果的な施策・事業の実施に向けた協議が行われるようになりました。6項目とは、中小企業支援施策、消費者支援施策、男女共同参画施策、権限移譲、文化・芸術支援施策および水道事業です。このとき担当部局を交えた部会を設置するなどして協議が行われました。その内容は9月に開催された「府市首脳懇談会」で市長・知事に報告され、両首脳が合意しました。

 

その後一般からの意見募集や、有識者との意見交換を経て、20072月に協議会と「府市首脳懇談会」が開催され、このとき3項目が追加されて、検討・協議することが確認され、大学や公営住宅とともに、府市の衛生研究所が含まれるようになりました。

 参照:

 府市連携協議会について」

  

20072月に首脳懇談会が開催され、そこで確認された公衛研・環科研に関わる事項は、以下の通りでした。

 「府市で安心の砦となる拠点を作るため、同様の施設を整備するのではなく、不必要な重複排除と重点投資による研究機能の強化を図るという観点」から、府立公衆衛生研究所の建替えを契機に、府市で研究所の機能集約の可能性について、2007年秋頃を目途に検討・協議する。また、研究所の機能集約を検討する一方で、現体制で可能な連携についてもできることを行い、機能強化を図る。

 参照:

 「府市首脳懇談会の確認事項について」200729

  

同年9月に開催された懇談会では、次のことが確認されました。

 両研究所の知識・ノウハウの結集で、更なる機能強化、高度化、効率的業務運営を図る。その方策について、合築による事業の協同実施を視野に、今年度を目途に協議する。

 一方現体制下でもできることとしては、共同研究、共同研修は既に実施していて、公開セミナーの共同実施についても合意した。今後引き続き現体制で可能な事業連携について拡大を図っていく。

 参照:

 「『府市連携協議会』開催結果の概要(平成19年9月12日)」

  

2007年度中に、府市両研究所の実務担当者による検討が行われました。その結果、建物の耐用年数の違い、GLP(試験実施適正基準)*1による機器の共同利用が限定されること、また環境分野についても相違点が多いことなどから、合築については当初想定されていた効果が発揮できないことがわかりました。

 参照:

 大阪府立公衆衛生研究所編『平成19年度 大阪府立公衆衛生研究所年報』2008年,21頁.

 1 GLP

 医薬品・食品の検査や試験を行う際、それが正確かつ適切に行われたことを保証するため、試験施設が備えるべき設備、機器、組織、試験の手順等を含む基準のこと。

  

結局、20084月、府知事と市長の意見交換会において、両研究所を合築し機能集約することは見送ることが決定されました。一方機能強化を図る観点からは、事業の連携は推進していくことになりました。

 参照:

 市会議事録:「平成213月定例会常任委員会(民生保健・通常予算)-0316日-06号」

 加藤仁子委員から衛生研究所について大阪府との機能連携の経過を問われて、山下健康福祉局環境科学研究所総務担当課長が答えている。

 大阪市会議事録についてはこちら  大阪市会録検索

  

●このように、府市連携協議が2006年からはじまり、このとき対象とされたのは6項目でしたが、翌年3項目が追加され、その一つに衛生研究所がありました。当初は、公衛研と環科研の機能を集約して合築するという案もあったのですが、結局さほど利点がないとされて合築は見送られました。一方共同研究、共同研修など事業の連携は推進されていきます。 

2016.4.28